公開講座『観測者依存性(相対性)をめぐる物理学の発展』の実施報告

2021-12-28

10月~12月にかけて、本学航空工学部の古川靖教授が、かごしま県民交流センターにおいて3回シリーズの公開講座を実施しました。かごしま県民大学中央センター(鹿児島県教育庁)が主催する「かごしま県民大学とことんまなぶ―講座」の一環として開催しているものです。


今年度のテーマは、“観測者の視点が異なると世界はどのように異なって見えるか”です。視点が違えば見え方も違ってくるのは当然ですが、ブラックホールなどを考察すると、驚くべき結果が得られます。


第1回では、わたしたちの自然界を矛盾なく説明するためには、無数の異なる宇宙が生成されると考えるマルチバース宇宙論に至ることを説明しました。地球中心の天動説の視点から、数ある宇宙の中の一つとしての視点に立つと、マルチバース宇宙論に導かれるのです。


第2回では、相対性理論によると、ある視点では運動による時間の遅れと観測されることを、別の視点から見ると空間の収縮として観測される例を説明しました。時間の問題が視点を変えると空間の問題に見えるという観測者依存性は、いったい何を意味しているのでしょうか?時間と空間(あわせて時空)とは、いったい何なのでしょうか?

第3回では、ある視点ではブラックホールの外側の物質の量子情報と見えることが、別の視点ではブラックホールの内側の時空に見えるという例を説明しました。この性質を一般化したホログラフィー原理が成り立つとすれば、時空は初めから与えられているものではなく、物質の量子情報から“創発(生成)”されるものだ、と予想されるのです!しかも、物質の量子情報から重力理論(一般相対性理論)が創発される様子は、量子誤り訂正符号の理論によって量子コンピューターのエラーが訂正されていく様子とそっくりなのです!

このように、理論物理学の究極理論(量子重力理論)の研究が、量子コンピューターや量子暗号通信などの量子情報科学の研究と交差しつつあるという稀有な時代となっているのです!

(航空工学科/社会・地域連携センター)