川口尚毅助教の査読付き英語学論文が国際誌に掲載されました
2024-06-27
共通教育センター川口尚毅助教 (専門:言語学/英語学; 担当科目: 英語科)が執筆した論文 “Participial Constructions: Growth and Extensions” (「分詞構文:成長と拡張」)が国際誌English Linguistics第40号に掲載されました。本誌は日本英語学会のジャーナルであり、そのEditorial Advisory Boardには、言語学界に革命を起こした、かのNoam Chomsky博士もその名を連ねています。
用語「分詞構文」 (例: He was studying English, listening to music [彼は英語の勉強をしていましたが、そのとき音楽を聴いていました])は、日本の英語教育現場で耳にしない日はないほど、英語学習者に卑近な文法項目です。しかし、これには多くの問題が関与しています。すなわち、分詞構文には、「典型的/“ふつう”」なものから「非典型的/“変”」なものに至るまでの「連続体」が関与しています。川口助教は分詞構文を取り上げたうえで、この連続体の存在を「ホモ・サピエンスが持つ言語能力の1つ―文法拡張―」(専門的には「統語的再解釈」といいます)に訴えることで、説明しました。説明の際、本論文において川口助教は、分詞構文の全容を大木になぞらえました。そして、(i)もっとも典型的で“ふつう”な事例を「幹」、(ii)やや典型性の落ちる“やや変”な事例を「枝」、(iii)もっとも非典型的で“変”な事例を「小枝/末梢」に例えました。そして、(i)から(iii)に向かって文法が拡張するとしたうえで、文法が拡張する動機も明らかにしました。さらに、(iii)の文法性には、意味的/認知的制約がさらに強くかかわっている事も例証されています。
川口助教の論文には、英語教育現場への実質的貢献と学術的独創性とがあります。前者に関し、経験科学の基盤として欠かせない経験的事実―実例―を豊富に含んでおりますので、英語教育の現場への貢献も期待されます。後者に関し、分野の細分化が進む英語学分野において、(A)統語、(B)意味、(C)認知心理、(部分的に) (D)歴史といった多角的視点を(E)伝統的な記述文法/英語語法文法によりまとめ上げているという点で、極めて独創的です。加えて、近年の統語論の主流的理論に訴えるのではなく、「動的文法理論」(言語習得の段階間に起こる言語操作に重きを置く)に訴えている点も独創的です。
研究の結果、川口助教は次のような興味深い仮説を提出しました。当然、現代の英語を習得している子供は英語の歴史変化を知る由もありません。それにもかかわらず、現代の子供は、あたかも歴史を知っているかのように、英語の習得過程において英語の歴史変化や歴史上に生じた文法操作を(部分的にであれ)再現している、というものです。川口助教によれば、我々ホモ・サピエンスであれば、洋の東西と時代の今昔を問わず、同じ「脳/言語能力」を有しているため、上に述べた一見した「歴史再現」は可能です。むしろ、ある一定の文法操作が現代と歴史上との双方において生じている/生じていた、とします。その場合、その文法操作を「ホモ・サピエンスの言語能力」の1つとして措定することに、十分な基盤が与えられることになります。
論文に興味のある方、また川口助教が本論の着想に至った経緯、関連文献に関してはぜひ、English Linguistics vol. 40 (開拓社より出版)をお手に取られて、御覧ください。
なお、(D)歴史的観点から執筆された分詞構文に関する査読付き論文ももう間もなく上梓される予定です。その際、上記の大木のたとえ―(i)「幹」、(ii)「枝」、(iii)「小枝/末梢」を想起されてください。この大木のイメージは、(iv)「根」―「分詞構文の歴史的出自」―を加えて初めて完成するのです。もう1つの論文が上梓され次第、TOPICSでお知らせする予定です。
川口助教は、今後も、英語の諸相、そしてなによりも、ホモ・サピエンスの言語の諸相を共時的、通時的、そしてなによりも、地道に研究してゆくことを目標としています。
※掲載許可をいただいております。
(共通教育センター)